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レース界で活躍するツワモノに聞くレースの魅力 〜マリア・エレーラ選手インタビュー

マリア・エレーラ選手(Maria Herrera)

 

レーシングライダーとして世界で活躍するマリア・エレーラ選手に、2019年MotoGP第13戦サンマリノGPでインタビュー。幼いころからバイクのスピードに魅了されてきたという彼女は、今もただ純粋にレースを愛し、その情熱を傾けている。

 

写真:Rafa Marrodán / Ángel Nieto Team、MotoGP.com、
WorldSbk.com、マリア・エレーラ、伊藤英里
文:伊藤英里 協力:Sonia

 

ふわりとなびくウエーブがかったロングヘアと、張りのあるつややかな肌。屈託のない笑顔を浮かべれば、白い歯がこぼれる。インタビューで向かい合ったマリア・エレーラ選手はとても魅力的な女性だ。

 

マリア・エレーラ選手(Maria Herrera)
2019年シーズンはMotoEとWSSに参戦し、2020年はMotoEに継続参戦するマリア選手

 

マリア選手は1996年生まれ、23歳のスペイン人。身長は162cmということだから、日本人ライダーと比べても特別大柄というわけでもなく、なんだか親近感が湧いてくる。2015年からロードレース世界選手権Moto3クラスにフル参戦。2018年にスーパースポーツ世界選手権300(WSS 300)で戦ったのち、2019年シーズンからはMotoEとスーパースポーツ世界選手権(WSS)にダブルエントリーしている。

 

MotoEは、2019年から始まった電動バイクレースによるチャンピオンシップ。MotoGPのヨーロッパラウンドと併催で、マシンはエネルジカ・エゴ・コルセで統一されている。一方、WSSはスーパーバイク世界選手権(SBK)に併催されており、気筒数によって上限排気量は異なるが、基本的に600ccクラスの市販車をベースにしたバイクで争われるチャンピオンシップ。マリア選手はヤマハYZF-R6を駆って戦った。2020年シーズンは、MotoEに継続参戦することが決まっている。

 

 

マリア選手がバイクに乗り始めたのは、お父さんの影響だという。 「わたしの父はモータースポーツが大好きで、ずいぶん前にはレースにも出ていたのよ」 4歳のときにバイクに乗り始め、6歳でレースに初挑戦。そのときの印象を聞けば「覚えていないのよ」と笑う。「でも、スピードが大好きでね、毎周、もっと速く走ろうとしていた。父と兄弟と、バイクに乗ってすごす週末の時間が大好きだったわ」

 

バイクに乗り始めたころからスピードに魅了されていたというマリア選手。プロのレーサーになろうと思ったのも、それが理由の一つだった。 「12歳のときに初めてレースで優勝したの。この感動を何度も繰り返し味わいたいと思った」と語ってから「それからね、サーキットを速く走ることが大好きだから」と加える。

「スピードが大好き! この感覚は、説明できないわ。ストレートじゃなく、とくにコーナリング中のスピードね。だって、ストレートで速く走ることは誰にだって簡単でしょう? だから、わたしはコーナリング中のハイスピードが大好きなのよ」 その話しぶりから、マリア選手がバイクのスピードというものに魅了されてきたのだと伝わってくる。

 

現在はレーシングライダーとなったマリア選手だが、今もレースを楽しむスタンスは変わらないという。 「レース中、集団のなかで争うような混戦が好きなの。あと、勝ったときね。でも、(1対1でポジションを争うような)バトルもおもしろいわ!」 では、彼女が一人の観戦者となったとき、レースはどのように魅力的に映っているのだろう。 「レースのすべて。1コーナーはとってもエキサイティングよ」

忘れられないCEVの初優勝

そんなマリア選手にとってもっとも印象深いレースは、2013年のCEV Moto3(※)のアラゴンで飾った初優勝だ。 「CEVで挙げた、わたしにとって最初の優勝なの。この年はケガを抱えていて、きびしいシーズンだったけれど、優勝したときに自分の意識が開けた。自分にはできるんだって。最高の瞬間だったわ!」 この優勝は、CEVで女性レーシングライダーが挙げた史上初の勝利だった。マリア選手は16歳にして、この快挙を成し遂げたのだ。

 

男性が多いレース界にあって彼らと競い続けるマリア選手は、女性だからこそ、というアドバンテージなどを感じているのだろうか。 「わたしたちは、(男性より)もう少し考えることができる、ということかな。男性はもう少し衝動的というか。もちろん、男性もただ乗っているわけではないと思うけれど…」 一方、男性と比べて難しいと感じるのは「力だと思う」との答え。MotoEマシンの車両重量は260kgと、レーシングバイクとしてはかなりの重さで、このMotoEマシンを操るために、昨年は「一昨年よりも1日1時間ほど多くジムでトレーニングをしないといけなかった」そうだ。 「でも、わたしはテクニックを持っているし、それがわたしの強さなのだと思うわ。テクニックは知識よ。わたしは小柄だけれどできているのだから、きっとほかの女性ライダーでもできると思う」

※現FIM CEV レプソルMoto3ジュニア世界選手権。MotoGPを目指す若手ライダーの登竜門という位置づけのチャンピオンシップ

トレーニングでは自分の体について理解することが大事

2018年よりも1日あたり1時間増やしたというトレーニング。マリア選手は通常、朝6時からトレーニングを行なっているという。

 

「現時点では、High Intensity (Interval)Trainingをやっているの。高い負荷をかけた運動を1分間行ない、それから1分間休む。トレーナーと一緒にやるの。前よりもずっと調子がいいと感じているわ。朝食前に50分のトレーニングをして、朝食後に2時間30分のトレーニングをしている。朝食後はもっと激しいトレーニングで、全身を鍛える。ジャンプとかね。全身のトレーニングをしているの」

 

日本人の女性ライダーたちに紹介できるトレーニングはある? と聞くと、レーシングライダーらしい答えが返ってきた。 「パーソナルトレーナーを付けるべきだわ。みんな、体が違っているから。わたしは自分の体を理解しているけれど、(トレーナーを付ける)以前は何もわかっていなかった。(トレーナーを付けることで)体について学んでいくでしょう」

 

ちなみにマリア選手、もしレーシングライダーになっていなかったら理学療法士かパーソナルトレーナーになりたいと思っていたそうだ。トレーニングはもちろんのこと、それを教えることも好きだと言う。だからこそ、鍛えるために自分の体をしっかりと把握することの重要さを認識しているのかもしれない。

レーシングライダーの手が生む意外なもの

レーシングライダーとして多忙な日々を送るマリア選手だが、ちょっと意外な趣味を持っている。一つはローラースケート。こちらはあまり意外ではないかもしれない。「ローラースケートはスピードが出るから好きなんでしょう?」と突っ込めば、「そう! わたしはスピードが大好きなのね」とにっこり。ローラースケートは7歳のころから、バイクと同じようにお父さんと兄弟と楽しんでいたという。

 

マリア・エレーラ選手(Maria Herrera)・ローラースケート
毎年夏にお父さんと兄弟と楽しんだという、ローラースケート。さらには「あらゆるスポーツを父と一緒にやったの」ともマリア選手。いろいろなところにお父さんの影響があるようだ

 

そして“意外な”もう一つの趣味、それは“絵を描くこと”なのだそう。風景を写真に撮り、それを風景画として描くことが多いというマリア選手は、その時間をとても大事にしているのだという。 「(絵を描いている間は)意識を紙に集中して、それ以外何も考えないでいられる。わたしはいつも、レース参戦やそれに関するイベントをたくさん抱えているから、こういう時間が必要なのよ」

 

きっと、絵を描くことは彼女の心の休息の時間なのだ。お願いすると、マリア選手はスマートフォンで撮った絵を見せてくれた。なかなかにうまい。動物や自画像などが、柔らかで繊細なタッチと色彩で描かれている。サーキットでは激しくレースを戦う彼女の、まったく違う一面が垣間見えるようだった。

マリア・エレーラ選手(Maria Herrera)・自画像
マリア・エレーラ選手(Maria Herrera)・ライオンの絵
マリア・エレーラ選手(Maria Herrera)・人物画
マリア・エレーラ選手(Maria Herrera)・ゾウの絵
趣味だという絵は、とても繊細なタッチと、淡い色どりで描かれている。まず風景などを写真に撮って、それを絵に描いていくそう。今回見せてもらったのは動物や自画像だが、よく描くのは風景画なのだとか

原動力は、バイクとレースへの愛

マリア選手が2019年に新たに参戦したMotoEは新しいカテゴリーのレースだ。クラッチもギヤチェンジも、エンジンが奏でる音もない。そして、マシンの車両重量は260kgもある。しかしその印象は、決して悪いものではない。 「MotoEマシンはほかのバイクよりも大きい。クラッチがないから最初は変な感じだったわ。でも、このバイクの特性はとてもスムーズで、わたしのライディングスタイルにも合っているの。このバイクで走ることが好きよ」

 

そしてまた、こうも言う。 「MotoEはわたしにとって、大きな目標だった。最初、このバイクはわたしには乗れないだろうと思っていたの。けれど、今、わたしはちゃんと乗りこなしている。乗れることを証明したかったのよ」

 

その言葉を裏付けるように、2019年MotoEサンマリノGPのレース2では、表彰台を争う集団で激しいポジション争いを繰り広げた。結果は5位だったが、それ以上にレース内容は彼女がMotoEマシンで上位を戦えるポテンシャルを見せるものだった。

 

レースにかける原動力を、彼女はこう表現する。「モチベーションは、バイクを愛しているからということだけ。モータースポーツを愛しているということなの。女性とか、男性とか関係ない。わたしは父からこうした情熱を受け継いだのよ」 若くして、多くの挑戦を続けるマリア選手。その原動力になるのは、“バイクが、レースが好きだから”。今後も一人の“レーシングライダー”として、挑み続けていくのだろう。

電動バイクによるチャンピオンシップ、MotoE

FIM Enel MotoE World Cupは、2019年から始まった電動バイクによるチャンピオンシップ。MotoGPのヨーロッパラウンドに併催される。マシンはイタリアの電動バイクメーカー、エネルジカ・モーターカンパニーの市販車“エゴ”をベースとした“エネルジカ・エゴ・コルセ”で統一されている。車格は1000ccバイクに近く、車両重量は260kgとかなり重め。クラッチやギヤチェンジはない。2シーズン目となる2020年はマリア選手を含め全18名のライダーがエントリー。全5戦7レースが予定されている。

 

FIM Enel MotoE™ World Cup 公式サイト

マリア・エレーラ選手(Maria Herrera)プロフィール

1996年生まれのスペイン人。身長162cm。2012年からのCEV Moto3参戦を経て、2015年より世界選手権Moto3クラスにフル参戦。2018年にはスーパースポーツ世界選手権300にエントリー。2019年は電動バイクレースMotoEと、WSSで戦い、2020年は2シーズン目となるMotoEに継続参戦する。

公式Twitter(@MariiaHerrera_6)

公式Instagram(@mariaherrera_6)はこちら

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